市岡 隆興

35歳
エンジニア(土木)(高速道路の建設を担当) 
トライアスロン選手

1998年 東京都トライアスロン選手権(ショート)優勝
2000年 アイアンマン ハワイ大会 100位(9時間43分)
2001年 アイアンマン ジャパン 9位
2003年 日本山岳耐久レース 3位(8時間57分)
2004年 富士登山競走 6位(2時間55分)
2005年 チャレンジャーズレース東京トレイル100km 優勝
2006年 アイアンマン ハワイ大会 169位(日本人6位)(9時間35分)

(アイアンマンハワイ大会参加年:95,97,99,00,01,03,05,06)



(インタビュー・編集 円井基史)(インタビュー:2006年11月5日)







・競技的にベストの時期、その成績、
 およびその当時のトレーニング内容・パターンを教えてください。

(※編集者注:当サイトのインタビュー記事「異種競技トップアスリートの視点」の
市岡選手 のコメントも合わせてご参照ください。)



トライアスロンのハワイ(アイアンマン)が最も重要なレース。
2000年に100位になり、当時は練習量も多かった。
その後、仕事で異動があり、忙しくなり、練習量は減ったが、
ハワイ大会での成績を見て、自分のパフォーマンスは当時と同等程度と感じている。
(ハワイの順位は下がっているが、それは世界の上位層のレベルが上がっているからで、
自身のタイムは落ちていない。)


かつて、池内君(東工大卒のトライアスリート)が、エイジグループからプロ選手を対象に、
事前のトレーニング量とハワイの成績との関係性を探っていた。
僕自身は、トレーニング量と成績(パフォーマンス)との間に
それほど大きな相関性があるとは思っていない。
もちろん関係ある部分は多いと思うが、それだけでは説明できない部分も多く、
そこに重要なものがあると思っている。

つまりトレーニング量は気にしていない。
(環境から、そうせざるを得なかった。限られた時間=短い時間の中で、
最大の効果を得るためには何をしたら良いかを常に考えた。
目標大会でのパフォーマンス発揮に無意味と思われる練習は、一切止めるしかなかった。
意味のある練習をした。もしくは、意味を見出せる練習のみをやった。)

経験も大事である。そこからうまい練習方法、効率的な練習を見つけ出す。

持久系の運動であるから、長時間の運動をすることはとても重要であるが、それだけではない。
それぞれのトレーニングの目的を理解する。
そして自分の目標に到達するために必要な練習をするということが大事である。
時間軸もとても大事なことであり、いつ、どの練習をするかも考える必要がある。
(効果が現われるのに3ヶ月かかるような練習を、本番直前にやっても意味がない。)




・最も忙しかった時期のトレーニング内容・パターン、
 またそのときの典型的な生活パターンを教えてください。

(※編集者注:雑誌トライアスロンジャパンの2006年8月号に市岡選手の特集記事があり、
詳細な図表が掲載されています。そちらを合わせてご参照ください。)


2003年が最も忙しかった。
(※編集者注:平日は始業が9:00で、終業が23:30-26:30程度。
家をAM7時過ぎにでて、帰宅はAM3:00頃が平均的であったとのこと。)

TJ(トライアスロンジャパン)にも書いたが、ベース持久力、スピード持久力、技術を意識している。
ターゲットレースに向けて、どんなトレーニングをいつ行うかが重要。
トライアスロンは3種目であるが、常に3種目を高いレベルで練習しようとしたら、
日々かなりのトレーニング時間が必要となる。
3種目の共通項なども考え、時期によって種目とその強度を変えて本番にあわせることとした。

例えば、(ハワイに参加しないで)来年の10月のハセツネ(日本山岳耐久レース)を
メインターゲットとした場合、考えられるトレーニングスケジュールは以下のようになるだろう。

【以下、具体的な心拍数をあげるが、心拍数は人によって全く異なるものなので、
数値自体は参考程度に考えて欲しい。
自分の中での比較をするのであって、他人の数値と比較したりしてはいけない。】

ベース持久力のトレーニングとして、5-10時間のイージー(低負荷)を月1-2回。
これは年間を通して行う。
(これは、トレーニング後に即効果がでるものではない。
長期的にじっくりやる必要があると考えている)

スピード持久力のトレーニングでは、レースペースよりややハード(高負荷)な練習を行う。
僕の場合は、心拍数が170-180beats/min程度だろうか。
今(11月)は30分-1時間程度しか維持できないが、
来年10月には、8-9時間維持できるレベルまで持っていきたい。
徐々にその時間を延ばしていく。
先のベーストレーニングの中で、部分的にハードな運動を入れていくと良い。
7月くらいには、4-5時間のレベル。
ここでは、富士登山競走のレース(3時間程度)を、トレーニングとして入れると、
心拍系のトレーニングとしてちょうど良い。

高心拍維持を目的に考えるのであれば、運動の種類は、心拍が上がれば何でも良い。
僕の場合、簡単にできるのがトレイルラン。
(環境や、種目の得意不得意も関係してくることだと思う。)

最近のアイアンマンレースでは、心拍が165程度で維持している。
だから、そこそこの結果しか出ていない。
事前の準備をもう少ししっかりと行い、高心拍(170-180)を長く維持できるよう仕上げられれば、
もっとタイムが上がる。



補足:
心肺機能を鍛える目的なら、どんな種目でも良い。
それは、言い換えると、ある種目にとらわれる必要はないということ。
走れる環境、バイクができる環境、スイムができる環境、(身体についても同様、)
人によって、また、時期によっても違うことがあるだろう。
心配機能を鍛えやすいものをチョイスすれば良い。


その競技特有の筋力、技術を鍛えられる運動、それは、誰もが、目指しているところだろう。
トライアスロンで言えば、3種目、それぞれ、
これを目指すと常時のトレーニング時間もかかるし、疲労も溜まる。
高いレベルになればなるほど、その維持には時間を要する。
だから、時間がなければ、単にそれぞれの種目の時間を減らすのではなく、限られた時間のなかで、
目的に合わせた練習を選ぶことが大事だと考えている。
無理に同時に3種目を、(強度をそろえて)やる必要はないと。
(本番前には、3種目とも、高い強度でやる必要はある。)


自分の目指すところを決め、そこへの到達で足りないものを分析する。
細分化して、どこを、何を、鍛える必要があるかを。
(それを鍛えるのにどの程度時間がかかるかも重要。)

すると、自分の専門のフィールドだけのトレーニングより、
他のフィールドでの効果的なトレーニングが見つかる可能性は大きいのではないだろうか。





・時間を作るための工夫を教えてください。

(※編集者注:当サイトのインタビュー記事「異種競技トップアスリートの視点」の
市岡選手 のコメントを合わせて参照ください。)


特にない。

強いて言えば、昼休みにトレーニングする。

他の人が、外に食べに行っている間、走りに行く。
昼食は、軽い強度の練習後におにぎりを2-3分で食べる、もしくは食べない。

2003年頃はテレビや、新聞すら見る時間もなかったが、最近ではテレビもたまに見るようになった。





・人生の中で仕事はどういう位置付けですか?
 仕事へのコミットメントや、仕事に魅力を感じているかを教えてくださ い。
 時間は有限ですが、仕事や競技など、どうバランスを取っていますか?


難しい質問。
基本は、仕事とトライアスロンの2つを大事に。
結婚して子供もできたので、そこに家族も入ってくる。

仕事にすべてを集中しようとしたら、トライアスロンはできない。
仕事は、(当然のことながら)最低限のことはこなす。
将来は一人前の橋梁の技術者になりたいと考えている。
そのために今の会社を選んだ。
ただお金を稼ぐためなら、仕事が忙しくなった時に、すぐにでも会社を辞めていただろう。

就職して8-9年経ったが、橋梁技術者としては全くの未熟者。
まだまだ勉強中の身である。少しずつでも成長していきたいと思っている。


余談:
会社の中で、競技選手として仕事を優遇してもらえることも選択できたが、そちらは選らばなかった。
短期間で結果を出すことより、競技を長期的に続け、
ベースを少しずつでも高めていった方が良いと思ったからである。
(普通の社員と同じように働き、その余暇で活動していれば、
会社側からも競技を止めろとは言いにくいだろうと思った。)


就職当初は、我社の中では比較的、時間的には楽な研究所勤務であった。
トレーニングも今よりはずいぶんできた。そして、競技の成績も上がった。
2001年に部署が変わって忙しくなり、トレーニングが思うようにできなくなった。
そしてハワイで見事に惨敗した。トレーニング時間が減ったので当然のことだった。

そのままでは終わらせたくなかった。(これで競技を止めていく人が多い。)
その結果を受けてトレーニングを大きく見直した。
年間のスケジューリングと、パートと時期に注目して、トレーニングを考えた。

忙しくてもトライアスロンを続けるために、そして、
その中でも勝負するために、忙しいからこそ頭を使った。

楽な生活であれば、あのまま、あまり考えずにトレーニングを続けていただろう。

(時間の余裕がなくなる→タイムが落ちる→競技を止める。 
これが一般的なトライアスリートでないだろうか。
時間の余裕がなくなった中で、競技レベルの維持、さらには向上させるということは、
自分にとって、もの凄く大きな成長ではないかということに気がついた。)





・ 飲み会、家族サービス等は、自分の中で位置付けられていますか?


仕事もトライアスロンも家族も、どれも大事。
バランス良く。
トライアスロンは、競技自体もそうであるが、バランスのスポーツである。

バランスを保つ秘訣は、トレーニングでも、
1)必ずやるべきトレーニングと、2)可能なら行いたいトレーニングとを区別するよう意識する。

バランスを見て、1)の必須のトレーニング以外は削ることもある。

たとえば週何時間をノルマと決めてしまうと、それをこなせない場合、ストレスを溜めてしまう。
トレーニング量ではなく、トレーニングの中身を理解・意識することが大切。

必ずこなすべきトレーニングは、時には家族と喧嘩してでも行う(こともある)。


会社の飲み会は、好きではないが、断れないものが多い。
(※編集者注:市岡選手はお酒が飲めないとのこと。)





・プロ選手との差はどうしても生まれるはずです。
 ジレンマはありませんか?
 どこかに妥協点があるのでしょうか?
 プロ、セミプロへの道は考えない(なかった)のですか?
 アマチュアであることについてのどうお考えですか?


大学卒業後、少しはプロの方向へ行く選択肢もあったかもしれない。
しかしプロになれば、1-2年で結果を出さなければならない。
プロになって、いくら時間があっても、こなせるメニューは限られている。
体づくりにしろ、技術の習得にしろ、短期間での達成は厳しいと感じた。

自分にとっては、長いスパンで、ベースを上げていく道が良いと考えた。
つまり、仕事をしながらでも、徐々にベースを上げていく今の道を選んだ。

当時(大学卒業時)のレベルでは、プロは考えなかった。
プロになるなら、当時よりも、現在の方が、より上に行けるだろう。
(現状では、プロと互角に勝負はできないが、失敗したプロには勝てるレベルいる。)

今より上に行くには、トレーニング量も少し関係が出てくる。
もう少し仕事が楽になって、今の(神奈川県厚木)トレーニング環境があれば、
もっと上に行けると感じている。





・おまけ:年齢(加齢)とのつきあいについて、どうお考えですか?


若いときに比べて、筋肉の疲労の取れ方が遅くなったことは確実である。

昔は勝手に回復していたが、今はマッサージなどをやらないといけない。

他の部分では、加齢については、あまり感じない。

昔とトレーニングの内容が違うこともあるかもしれない。
昔は5000mタイムトライアルなどのかなりの高心拍トレーニングをよくやっていた。
今はあまりやっていない。(今もやろうと思えばできると思うが。)




・市岡さんは、トライアスロンの他に、トレイルランも行われています。
期間を限定して、トレイルランに集中してみたいと聞きましたが。



確かにトレイルランに絞った年を作ってみたいと思っている。

トライアスロンとトレイルラン、どちらかに絞らないと100%のパフォーマンスを出せないと思う。
両方並行して行うと、例えば、それぞれ90%出せるだろうが、100%は出せない。
もちろん、トライアスロンとトレイルラン、両方やるメリットもあるが。

トレイルランをメインにしても、バイクはやるし、スピード系のランも行うだろう。
トライアスロンをメインにしても、トレイルランはトレーニングの一環として行う。
重なる部分はある。





・仕事と競技を両立させようとがんばっている、
 あるいはその挟間で悩んでいる若者へのコメントをお願いします。


特にない。

「焦らずがんばれ」と言うくらいか。


完全にトレーニングを止めると、元に戻すことは難しい。
きつくても、ベースをキープするトレーニングを続けること。
きつい中で成果を上げようとすると、潰れることもあるので注意する。
「いつか、チャンスは来るかもしれない。」と自分も信じていることころである。


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