村越真


2002年度全日本選手権 優勝
2003年世界選手権 日本代表



質問1
フィジカル(体力)トレーニングについての質問です。

(1)昨年度(2002年度)のトレーニング状況(内容、量など)


 量的には別表の通り。1999年以来続いていた、怪我・故障・手術などトレーニングの阻害要因が久しぶりになくなって、12−1月には充実したトレーニングが出来ている(11月から距離を増やしたかったが、10月末に怪我をした影響が残った)。2月続けて300kを超えたのは99年の骨折以来。しかも骨折以来、自転車やクライミングマシンなどを10%程度は行っているので、350kmに近い運動量は確保した。
 しかし、今改めて記録を整理してみると、9,10月からトレーニング量としてはまずまずのものをこなしていたことが分る。


(km)


  




(2)今年度(2003年度)の年間トレーニング計画

 ターゲットとなる大会は、7月のマスターズ世界選手権、世界選手権、そしてリレーの全日本選手権の3つ。4・5月前半は距離を稼いでベースを上げ、5月後半からスピードを高める(ATを上げるためのトレーニング)。7月に入ったら量を落とし、技術的な面に特化していきたい。できるだけ不整地を走り、同じスピードでもOLのタイムを上げることも課題の一つ。その後は10月まではある程度維持するが、エリートレベルのトレーニングはしない。11月を過ぎたら、特にトレーニングはしない。気持ちよいと思えるくらいのランニングは続けたい。




(3)典型的なメニュー、1週間の過ごし方

 1週間に、体育館でのトレーニング(後述)、スピードトレーニング、LSDを入れるようにしているが、重要なレースがあるとこのうちの一つはなくなる。
 スピードトレーニングは約3分の緩やかなのぼり(850mくらいか)によるインターバルが最近は多い。少ない時で3本、多いときは6本。LSDは一応18k以上(約90分)以上を目標にしている。特に何曜日というのはないが、レースシーズンは必然的に火曜日と木曜ないし金曜日が比較的ハードなトレーニングとなる。
 今は二日ハードな練習を続けると、その後のトラブルが心配なので、ハードなトレーニングは1日おきにしている。




(4)トレーニングの評価指標(距離、時間、心拍数など)

 一応距離で評価する。ランニング以外の有酸素運動も距離に換算している。自転車とかクライミングマシンがそれにあたる。5分で1kmにしているが、これは自転車では少し甘く、クライミングマシンでは少し過小評価のように思うが実用上は差し支えない。あまり面倒でも記録をつけなくなってしまうから。
 ランニングのトレーニングは3段階に区分している。ジョグ、ラン、スピードトレーニングだが、これも感覚的なもので、だいたい4分を切るとラン、3分30前後を切るとスピードトレーニングだ。一応ランはATレベルのランニングと考えている。



(5)目標となるタイム(例えば、5000mで16分、フルマラソン3時間以内)

 5000mでは、せめて17分は切りたいというのが目標だが、トラックのタイムは山での走りのスピードに直結しているわけではないので、最近は別にトラックのタイムを上げるる必要はないかとも考えている。同様にマラソンも2時間46分が目標だが(このタイムを切ると史上最速の認知科学者になれる、多分)、オリエンテーリングの成績とは直結しないので、そのためにトレーニングをするということはない。




質問2
テクニカルトレーニング、メンタルトレーニングについての質問です。

(1)OL技術(読図やコンパスワークなど)に関するトレーニング

 技術練習は合宿やレースのみである。レース数は少ないが合宿の日数を入れると年間30日程度は山に入っていることになる。夜走ることが多いので、走りながらの地図読みトレーニングは難しい。ジムのランニングマシンやクライミングマシンでプランニングをしながら走ることは多い。フィンランドの世界選手権に向けては1000レッグ以上はやった。ただランニングマシン上は普通に走るより振動が大きくて目が疲れるのは難点。
 あとは、地図調査とか、コースプランがいい練習になっていると思う。



(2)メンタルトレーニング

 特別に時間をとってやることは合宿時以外にはないが、常に目標や動機づけを明確にするようにしている。また動機付けを補うために、僕は周囲からのサポートや応援が重要な役割を果たしているので、意識して周囲を巻き込むようにしている。
 試合前に興奮するたちで、かつてはそれを不安・緊張と勘違いしていた。だが、両者は全く別のものだ。ただ一日くらいなら興奮して眠れなくてもどうということはない。それは不快な経験だが、レースの一部だと割り切っている。長期の遠征や本当に重要な試合では興奮の期間が長くなるので、それは呼吸法や日常生活でのリラクセーションを取り入れることで、抑えるようにしている。



質問3
トレーニングにおける工夫についての質問です。

(1)オリエンテーリングを特に意識したトレーニング方法

 日常ではかなり難しいが、なるべく地面の上を走るようにしている。路肩の草むらとかに入って走る。






(2)トレーニングする時間を確保する工夫

 僕はTVも月に10時間も見ないし、比較的自分で時間をコントロールしやすい仕事なので、時間は確保できている。ただ月30時間程度を越えることはそれでも難しく、長い距離のトレーニングは犠牲になってしまう。
 前は走って帰ったりしたこともあったが、現在の通勤路は車でも20分もかからず、仕事用の荷物を移動する不便さなどを考えると、結局あまり時間の節約にはならないと思い通勤ランはしていない。その代わり東京出張等が続くときには、静岡駅から家まで走ってかえることがある。
 基本的にトレーニングをする時間を前提に時間管理をすることだ。誰だって忙しくても食事をそうそう抜きはしないだろう。それはいつ食事をするということが日課になっているからだ。トレーニングも日課にしてしまえば、いくらかでも時間は確保できるものだ。





(3)その他トレーニングにおける工夫

 いろいろ新しい方法を試して好奇心を維持させることかな。清水も同じトレーニングが続くと、体がサボり方を覚えるので練習方法をどんどん変えていくと書いていた。





質問4
日常の工夫についての質問です。
トレーニング以外で、トレーニングやパフォーマンス向上に関連した日常の工夫があれば教えてください。

 本が好きなのでオリエンテーリングに限らずスポーツもの、特にトップアスリートのインタビューなどはよく読む。トレーニングに対する実質的なヒントにもなるし、なにより自分もやってやろうという気持ちになる。やる気の下がったときにはそういう本を読むこともある。
 後は、栄養摂取、夏の水分摂取、季節を問わず睡眠は気を遣っている。まあ7時間程度は寝るようにしている(必ずしも眠るわけではないが)。ただ最近は食欲も落ちてきているので、なかなか必要なカロリーを取れていないように思う。



質問5
最後に、オリエンテーリングに取り組んでいる学生に対して、アドバイスをお願いします。

 取り組みといってもいろいろあるので、自分を向上させたいと願っている学生を想定する。
 まず、本当に向上したいと自分が心から望んでいるのかどうかを吟味すべきだ。向上だけがオリエンテーリングの楽しさではない。それが向かない人もいる。別にそれだからといって不幸せな人生になる訳ではない。
 オリエンテーリングでなんらかの向上を得ることが自分のためになると思うなら、それだけの努力や工夫をすべきだ。向上のためにはモデルを作ると簡単だ。学生なら前年のインカレチャンピオンでもいい。その人と自分の間にはどんなギャップがあるのか。それが分れば、何をすればいいかは見えてくる。人から教わるだけでなく、自分からその方法を模索してほしい。それがスポーツで一番面白いことだと思うから。
 特に基礎技術をおろそかにしないでほしい。そのためには機械的に基礎技術を練習してはいけない。ある基礎技術は何のために使われていて、どうすればよりうまく使えるのかを考えてみるといろいろな発見がある。発見があれば練習過程はより面白いものになるだろう。
 中田やイチローの本を読んでみるとそのことがよく分る。彼らが野球やサッカーの世界で考えていることをオリエンテーリングの世界に置き換えたらどうなるかを考えてみるのも、いいトレーニングになる。魚柄という人の書いた「一月9000円の快適食生活」は食事の本だが、トレーニングの参考になった。日常的なことに対して意識を高く持つということがどんなことかよく分るだろう。








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