松澤俊行

2002年度日本ランキング 2位



質問1
フィジカル(体力)トレーニングについての質問です。
(1)昨年度(2002年度)のトレーニング状況(内容、量など)

 参考までに、2001年度が522時間・4656kmでした。
 2002年度は距離が4324kmです。時間は2001年ほど正確に計算していませんが、内容は大きな違いがないので、2001年との比率で割り出すと485時間、といったところでしょうか。
 平均6.72分/kmとはペースが遅い、と思われるでしょうけれども、距離については非常に怪しいものと思ってください。基本的には公園や河原など、不整地を選んで走っており、真っ直ぐ走っていないことも多いですし、会社員時代は出張も多く、距離が分からない場所では走った時間を過大申告にならないように7で割って、あくまで便宜的に距離を計算していました。
 なお、距離にも時間にもオリエンテーリング(設置や撤収なども含む)を加えています。平均ペースが遅くなるのはその影響もあります。





(2)今年度(2003年度)の年間トレーニング計画

 この4月から生活環境が変わったこと、2003年世界選手権出場権を逃したことで大幅な修正が必要ですが、ラン+オリエンテーリングで550時間、それ以外で100時間、という数字を目安として考えています。手軽に通えるプールがあること、大学で週2コマほど体育の時間が選択できることで、「それ以外」が行いやすい状態にあると思います。






(3)典型的なメニュー、1週間の過ごし方

 ホームページの「松の間の下駄箱」に2002年2月の4週間の記録を記しました。

  「松の間の柱」 http://members.aol.com/mazzawa/shoescase.html

 受験を決意した時から、2002年度はLSD系統のトレーニングは少しカットして、2003年世界選手権でもスプリントとミドル(ともちろんリレー)に絞ることにしていました。2001年度との距離・時間の差は主にそこにあります。






(4)トレーニングの評価指標(距離、時間、心拍数など)

 体感と時間です。心拍などをキチンと把握せず体感に頼ると、メリハリがつかなくなる恐れがあるのが難点ですが、心拍重視でも、自分の性格上数字に振り回される恐れが生じます。
 時間については、会社員時代はいつ急な業務が入り、時間が制限されるか分からないので、ともかく、どんな状態でもそこそこの時間は走る習慣を確固と築くことを意識していました。そうしないと慢性的なトレーニング不足に陥ってしまうことを懸念していました。




(5)目標となるタイム(例えば、5000mで16分、フルマラソン3時間以内)

 5000mで15分15秒。ハーフマラソン70分、フルマラソン2時間30分。でも、これは目安であって、例えばテレインでのトレーニングを制限して調整し、タイムの出やすいコースとシチュエーションで記録を狙う、という方法より、オリエンテーリングをコンスタントに行ないながら、その合間に安定して5000m15分45秒ぐらいの記録を刻み続ける、という方が意味があるようにも思います。そうした、自分しか計れない価値をしっかり計ることを忘れないようにしています。





質問2
テクニカルトレーニング、メンタルトレーニングについての質問です。

(1)OL技術(読図やコンパスワークなど)に関するトレーニング

 基本的に毎日コンパスと地図には触るようにしています。そう決めたのは96年のワールドカップ後で、かれこれ6年経つので、練習における力点は次第に変わって行っています。
 当初は1−2−3のフォームを走りながら練習する・チェックする、という気持ちで始めました。次は、そこに「方向変換」の練習という意味合いが加わりました。地図上の○から次の○の方向へ合わせ、体の方向を変える。それはまだ近似的な方向合わせでしかないので、コンパスを使ってチェックする。そうしたことを繰り返した時期もありました。ゲートボール場2面ぐらいの、狭い、すぐ金網にぶつかるような公園で、大会の全コントロール図のように○が沢山記された地図を用いてそうしたことを10分×3〜4回/週やって(自分の中ではこれを「鳥かご走」と呼んでいた)数ヶ月経ったところ、あるレースでふとコントロールでの方向変換動作が自動化されていたことに気付き、猛烈に感動した記憶があります。
 「地図上のレッグ距離読み取り」を重視した時期もありました。その際も全てレッグ距離200mのコース図を用いたり、1番から順に100mずつレッグ距離が伸びていくコース図を用いるなど、基礎作りの方法をいろいろ考えました。

 今から6年前と言えば、自分の地形読み取り能力レベルも、日本の地図レベルも現在とは異なりましたので、「信頼できるのは地図よりコンパス」「コンパスに地形読みを助けてもらう」という気持ちでしたが、これは時代遅れかもしれません。地図レベルも向上した今では、「オリエンテーリングでは等高線読みこそが重要」ということを忘れずに練習した方が良いでしょう。反面、テレインに平日に通えるわけではない選手にとっては、上記のような形もある程度有効な方法ではないか、とも思っています。

 なお、現在も、日によってルートプランニング重視の日や、スタートチャイマーの音を想起してスタートのイメージ作りをする日などをランダムに組み合わせて日々読図走を行ない、大会に備えています。



(2)メンタルトレーニング

専門的な指導者についてやっているわけではありませんが、「リラックス」「自信」「自己コントロール」ということは常に意識しています。そのための技法はいろいろな本に載っているので、割愛します。
 「本」の話ついでですが、会社員時代は通退勤・出張・遠征の移動時間等を利用し、メンタルトレーニング関連含め、合計数百冊の、スポーツをテーマとした本を読んでいました。2002年度はその時間を受験勉強に振り替えたのですが、その影響はレースへのパフォーマンスに及んだかもしれません。




質問3
トレーニングにおける工夫についての質問です。

(1)オリエンテーリングを特に意識したトレーニング方法

 2000年秋から2001年にかけて、LSDを鼻だけの呼吸で行っていた時期がありました。これは、そうすれば擬似高地トレーニングになる、というある人物のコメントを雑誌で読んでからでした。(厳密に言えば、高地では気圧その他も異なるし、日常生活から条件が異なるので、違うような気もしますが、部分的には正しいようにも感じます。)
 2002年度の冬は河原での4分/kmペース走(体感としてはトラックでの3分40〜45秒/km走に相当)を鼻だけの呼吸で行ったのですが、これが自分にとってオリエンテーリングのレース中に意識するべきペース・体感ではないか、すなわち思考のクリア度合いと技術の精度を保ちながら走れる最速のスピードなのではないか、という気付きがありました。
 技術面では、最近、読図の際「『コンパスなし』ならどういう走るかというルート」を、「コンパスを持って普通に走った場合取るであろうルート」と、比較しながら読むようにしています。『コンパスなし』を想定した読図だと、まず斜面に垂直に登り下りするか、コンタリングするかを基本にし、斜面を斜めに横切る場合や平らな場所に入る時に相当に注意して方向を変える、というプランのイメージになります。そのイメージには、「体の向き・視線の向きを真っ直ぐ保つ意識」「地図と現地から、精度の高い正置を行うチャンスが得られる場所(つまり面状や線状の特徴物)を探る意識」「前後左右を広く眺め回し、面の中にどういう線を描きながら進んで行くか注意する意識」が付随して来て、結果として、「どこでコンパスを活用すべきか」を感じ取れるので、有効なように思われます。
 こうした意識が湧いて来るのも、2002年秋から合宿の撤収などでコンパスなしのナビゲーションを試し、その時の自分の精度や心理状態(主に不安の度合い)を把握したこと、レースではキチンとコンパスを使い続けていることのおかげだと思います。







(2)トレーニングする時間を確保する工夫

 まず、オリエンテーリングを明確に「自分の一部」と位置付けることだと思います。そうすると、周囲の人にオリエンテーリングのことを伝えたくなる。伝えずにはいられなくなる。その時に情熱が伝われば、相手もこの人にとってオリエンテーリングは大切なものなのだと分かってくれる。すると、何か他のこととオリエンテーリングをハカリに掛けるときに、常にオリエンテーリングを優先できる、とは言わないまでも、オリエンテーリングが優先される度合いがある程度は高くなる。
 そうした時、ためらいが入り込まないよう、アスリートの自覚を持ってしっかり練習すること・普段から人との和を重視することも(自分の場合は)大切ですね。






(3)その他トレーニングにおける工夫

 飽きっぽいというのもありますが、同じことを長い時間続けないことでしょうか。例えば休日に2時間LSDをする、という時に半分は読図しながら走れ、もう半分は暗くなって走りに専念できるような時間帯を選んで走る、など。 
 あと、これは工夫とは違うかもしれませんが、いろいろな人に接して、それぞれの取り組みや考え方に触れることです。オリエンテーリングを通じて色々な出会いに恵まれましたが、ベテラン選手や上位者はもちろん、自分よりずっと若い選手にも、上位クラスで走っている選手に限らなくても、何か光るものを持っている・している・考えているものです。そうしたものを感じ、取り入れることができる「感受性」も自分の強みの一つではないかととらえています。





質問4
日常の工夫についての質問です。
トレーニング以外で、トレーニングやパフォーマンス向上に関連した日常の工夫があれば教えてください。

 シャワーを浴びる時、湯水を体に当てることも、体を磨くことも、体を拭くことも全てマッサージのつもりで行うこと。2年前からは、体を磨く際もより筋肉の状態を感じやすくするようタオルを使わずに素手で行うようにしましたが、これは有効だったように思います。
 眠る前のストレッチや体をほぐす運動の時間も以前より増やしました。結果として(・・・というより思惑通りなのですが)、筋肉が凝り固まった状態が長く続くことはなくなりました。



質問5
最後に、オリエンテーリングに取り組んでいる学生に対して、アドバイスをお願いします。

 まず、何よりもオリエンテーリングを愛することですね。オリエンテーリングを最も軽視した発言をするのが実はオリエンテーリング関係者だったりしますが、そうした発言には同調せず、聞き流すことにし、オリエンテーリングを愛する人と日々接していくことが大切です。「愛の成就」をお祈りしています。








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