田中 正人

プロアドベンチャーレーサー
Team EAST WIND 代表

1993年 日本山岳耐久レース 優勝(9時間07分)
1994年 オリエンテーリング ワールドカップ 日本代表
1995年 サハラマラソン 10位(日本人過去最高順位)
1997年 レイド・ゴロワーズ11位(日本人過去最高順位)
2001年 エコ・チャレンジ 11位(日本人過去最高順位)





質問1
いままで最もトレーニングをしていた時期(または、最も成績の良かった 時期)のトレーニング量、またその内容を教えて頂けますか?(距離、時間、年間計画、週の典型的なメニューなど)


1992年〜1996年くらい。月間走行距離は200〜400kmで多くはない。

走り始めた初期のころは、とにかく短い距離を追い込んで走っていた(坂道ダッシュとかよくやった)。トレイルランに行ってもザックに重しを入れて高い負荷 をかけていた。体をいじめるほどに走力が付き、それが面白くてトレーニングに熱中していたように思う。

とにかくスピード練習をよくやっていた。インターバルとかビルドアップとか。LSDをするにしても部分的にダッシュしたりとか、終了間際に数百メートルの ダッシュを何本か入れるなど。さらに筋トレではスクワットをよくやり、効果が大きかった。

あと、限界を超えるような思い切った高負荷をかけるトレーニングも重要だと思っています。体を壊す不安もありますが、ステップアップさせていくためには必 要を感じています。週末は重いザックを背負ってトレイルランに行き、平日は坂道ダッシュとスクワットをひたすらやって、1ヶ月間筋肉痛が治まらなかったこ ともありました。また、追い込んだスピードトレーニングのやり過ぎで、深呼吸すると胸が痛む状態になったことがあり、翌年の健康診断の胸部レントゲンで 「以前、肺炎に罹りましたね」と診断されました。どうも追い込みすぎて気管支炎になってたらしい。

筋力と心肺機能の追いかけっこを楽しみながらトレーニングをしていたように思う。





質問2
競技以外で忙しい日々において、トレーニング時間を確保し、競技パ フォーマンスを維持する上で、工夫した点がありましたら、教えてください。


95年までは会社勤めをしていたので、昼休み中の40分間がメインのトレーニング時間だった。また、勤務中にもスクワットなどをよくやっていた。とにかく 生活パターンの中にトレーニング項目を入れ込んでしまい習慣づける(パターン化する)ことが重要。

例えば、
・自宅〜駅は必ず走る。
・階段のあるところでは必ず階段を使用し、上りも下りも走る。
・電車内ではシートに座らず、踵上げをする。
・勤務中の決まったパターン時(トイレに行く時、お茶の時間など)に、その状況でできる筋トレをする。
・テレビを見ている時に腹筋をする。
・歯磨き中はスクワットをする。

とにかくトレーニング意識があれば、いつでもどこでも何かできるはずです。
小さな積み重ねが大事だと思います。






質問3
現在の日本オリエンテーリング界のトップ選手についての印象をお聞かせ ください。(フィジカル面、競技への取り組み方、意識など)


最近オリエンテーリング界から疎くなっていてよく分からないのですが、広くスポーツ界から捉えてみれば正直に言ってレベルは低いですよね。それはプロ フェッショナルな選手がいないことも大きな要因と思います。自分の力だけでアマチュア的にやっていたのでは限界が大きいように思います。他からの支援も受 けたプロ選手が出てくることで業界が発展するように思います。そして何よりもプロ意識というものが大切です。自分だけではなく、多くの人も巻き込んで活動 するわけですから、責任も感じますし、後には引けない覚悟もできてきます。退路を立つというか、そうしたプロ意識が身に付きますし、それが結果に大きく出 てくると思います。






質問4
2005年、愛知にて、世界オリエンテーリング選手権が開催されます。 世界と戦う日本選手にむけて、何かメッセージやアドバイスがあればぜひともお願いします。


世界を目指しているのであれば、現在の日本オリエンテーリング界の中だけで活動していたのではダメだと思います。井の中の蛙です。現在の環境の中で突出す ることを目指すよりも、突出した環境の中に入ってしまったほうが力が付きます。

世界トップクラスになる人とそうでない人の大きな違いは、「意識」の持ち方だと思います。多くの人は自分の中にある慣習、常識といった固定観念の範囲内で 行動しており、それがレースに対する取り組み方に直結してしまいます。つまり、自分の中で無意識に壁(限界)を作っていて、知らずに自分にブレーキをかけ ているのだと思います。トップクラスの人と行動を共にすることで、その「意識」を吸収し、今までの壁を取り除いたり越えたりすることができるのだと思いま す。非常識と思える世界、組織でも、その中に入ってしまえば常識になってしまうものです。海外に滞在してトップクラスの世界に入ってしまうことが理想で しょう。国内だったら、走力を付けるためにランニングの実業団と共に練習するとか、目指すレベルの世界を探して、積極的にその世界に入っていくことが重要 なのではと思います。

選手たちの幅広い活動を期待しています。


(インタビュア・編集:円井基史)


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