ペター・トーレセン

89年、97年世界選手権クラシック優勝者、ノルウェー代表
(97-98年冬に世界チャンピオンを日本に呼ぼうプロジェクトで来日したときの報告書部分の抜粋)


○トレーニングについて

・ 1ヶ月で何回かインターバルトレーニングはするが同じトレーニングはしない。
 今日は400m、次は1000mとか様々なトレーニングをする。
 陸上の選手として成功したいのならば同じトレーニングを繰り返すのも良いかも
 しれないが、オリエンテーリングにはそれが最良とは思えない。

・ いろいろなトレーニングを行う。例えばクロカンスキー。
 何時間もトレーニングできて筋肉に疲労を与えないからとてもよい。スカッシュもする。
 100mのケーブルタワーに走って登り、エレベータで降りてくるのを繰り返す。
 とにかくいろいろやることが重要。

・ テクニカルなトレーニングは他人以上にやっている自信が有る。
 机の上やベットだって地図があればトレーニングは十分出来る。
 それからインターバルと組み合わせたりする。
 インターバルのレストにルートチョイスをする。これは効果がある。

・ トレーニング量は週10〜20時間程度。スカッシュやスキーも含まれる。距離は週80〜200km。
 6割は1日1回で4割は1日2回。最低でも40分のジョグ。森のほか、ロードでのトレーニングもしている。
 (トレーニングダイアリーから推定)

・ 3000mは8:38。でももうこのタイムは出ない。ビヨルナーは8:20だしカールステン・ヨルゲンセンは
 ヨーロッパのクロスカントリーのチャンピオン。自分は特に走力があるわけではない。

・ 食事では特別なことはしていないが、一週間前から炭水化物を良く食べるようにする、
 それから水も多く飲む。水分はレース中もなるべく多く摂るようにしている。


○技術

・ 3つの基本的な技術。サムグリップ(サムリーディング)、方向、ヘッドアップ。

・ サムグリップの重要性は現在位置の把握にある。
 それを出来ずに、地図を見るたびに探すようなことがあれば、集中力を失ってしまう。

・ 方向に関しては、どんなレッグでも最低4回はコンパスを見て方向を確認する。
 単にコンパスを頻繁に見るだけでは修正ばかりして、うねうね走ることになるので、遠くに目標を持って走ること。

・ ヘッドアップも非常に重要。単に視野を広くとるだけでなく、頭をいつも上げていることを意識することが大事。


○目標

・ 設定する目標はあまり現実的であってはならない。
 始めから達成できると思える目標を設定するのに意味は無い。
 届かないように思えるところに目標をつくれ。
 多くのトップエリート、自分を含めて、はほとんど目標を達成しない、失敗の連続である。

・ 目標を作る上で何が一番重要か、それは目標を設定する理由だ。
 なぜその目標なのか、その目標を達成することによって、または、
 その目標に対して努力することにより何を自分が得るのか考える。

・ 目標に向かっていくのは自分自身。自分だけしかその目標を達成するために必要な努力ができない。
 その努力をする意思の元になるのは、その目標の裏にある、その目標を設定した理由である。
 だから目標を設定する理由が、準備の上で最も重要。

・ 自分にとってその理由は、オリエンテーリングという明確なルールの世界でしか味わえない
 緊張感、プレッシャーを楽しみたいから。自分にとって最高のプレイグラウンドである。


○現状分析

・ 現状分析は、フィジカル、テクニカル、メンタルな評価と大まかに3つに分けられる。
 さらにより細かいカテゴリーを設定することも可能。
 例えば、フィジカルの中でもクライミング、持久力などが考えられる。必要に応じて行う。

・ 分析を例えば10点のスケールで行える。フィジカルが6で、テクニカルが4、メンタルが8など。
 この分析において重要なのは、自分に対して正直であること。

・ 分析では自分へ問うこと。そして、他人との比較が重要。
 たとえば、全日本で8位だったとしたら、自分よりは7人速い選手がいる。
 彼らが自分よりも何が勝っているのか。自分に足りないのは何か。
 たまたまミスして8位と考えず、その順位が現時点での自分の実力だと受けとめること。

・ 精神力での分析は難しい。他人との比較も難しいが、自分に正直であるのも難しい。
 自分の行ったミスが、精神力の不足からなのか、それとも技術不足からなのかその見極めも大事。


○計画

・ 自分が欠けている分野を強化せよ。これがトレーニングの基本。
 多くの人は簡単に出来るフィジカルトレーニングに偏りがちである。
 欠けている分野を強化すべく、計画を作ったほうが良い。

・ 計画を作る上で重要のは自分は機械ではないということ。
 コーチに言われて、ひたすらトレーニングが出来るわけではない。
 自分たちは裕福な社会に生きており、一つのことだけに人生を投資するわけでなく、
 他にも色々と大事なことがある。そのようなものをどれだけ重要だと考えるのか。
 それらも計画の中に含めていく。

・ 食事、休暇、家族、趣味、お金、仕事そのうち何が重要なのか。
 そしてその重要なものをどのように計画に含んでいくのか。
 例えば自分にとっては家族、趣味は重要であるが、仕事はそれほど重要でない。
 仕事で得られる満足をオリエンテーリングで得られる。
 しかし、仕事で得られるお金は家族を幸せにするために必要である。
 そのために、40%などの部分的な仕事を持つことにした。

・ 仕事が重要ならば、それを加味した目標の設定が必要。
 しかしあまり現実的になるのは避けたほうが良い。
 予測不可能なことも予測するべきである。
 人生は完全に予測することは出来ないが、その予測できないことがある
 ということも踏まえて年間の計画を考えるべき。

・ 全てはゲームである。失敗を恐れるな。


○トレーニング計画・内容

・ 年間の計画で週ごとの大雑把なトレーニング時間を決める。
 最低でも週10時間、だいたい20時間ぐらいのトレーニングをする。

・ 毎週、日曜日にその週のトレーニング予定をつくり、
 hard,moderate,lightの3つに分けて時間を割り振る。
 当然フィジカルだけでなく、オリエンテーリングテクニックの時間も計画する。
 メンタルに関しては、週3回決まったメニューを行っている。

・ 年間のトレーニングは、基礎のトレーニングピリオドと、シーズン中のトレーニングの2つに分ける。
 この基礎の部分無しにトレーニングは成功しない。
 人によってHigh Altitudeのトレーニングにこだわりすぎる。
 本来トレーニングは基礎が大事なのに、レベルを上げる部分にこだわりすぎる。

・ 単なるロードワークをしないで、常にレース環境に近づけるよう、想像力を働かせることが必要である。
 JumpingやClimbing、Pathなどでのトレーニングを多くするが、当然ロードも走る。
 インターバルをするときはバリエーションをつけて走る。

・ 小さい坂を見つけ、それを繰り返しダッシュする。
 また、Jumpingする。高い建物の階段をトレーニングするなど、いろいろ考えられる。

・ トレーニングしているときは、常に自分が何故トレーニングしているか意識せよ。
 より強くなるためにトレーニングする。

・ メンタルトレーニングはトップレベルでは非常に重要だ。
 実際、トップレベルではこの差が順位を決めている。
 自分はリラクゼーションや、イメージトレーニングを行う。

・ 世界選手権などでは、メンタルな部分が大きいので、実はレベルは通常の大会よりも低い。
 こういう状況でのオリエンテーリングは基本に忠実であることが大事だ。
 その基本は、サムリーディング、方向性、ヘッドアップ、
 これらを100%やれば期待された結果を得ることが出来る。

・ こういった状況を経験するためには競争を取り入れたトレーニングも多くすべき。

・ トレーニングでは2,3個のことしかやらない。
 そうしないと集中できず、何も得られないことになってしまう。
 競技中も、やるべきことを簡略化する。あまり多くすることにこだわらない。

・ 重要なのは警報システム。つまりミスをする前に止まらせるシステム。
 何かがおかしい、そう思ったときに1,2秒立ち止まることが10秒ポスト周りで稼ぐことになる。
 また、10秒止まることが10分のミスを防ぐかもしれない。

・ 競技中はいかに平常時に戻れるかが勝負の鍵になる。
 最も早く平常時に戻ったものが勝負を制する。
 つまり、平常の状態から離れすぎる前に戻るためのシステムが重要。

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