1 はじめに
2002年チェコ戦に参戦し、2005年に向けて充分とはいえないが一定の数字を残すことができた。競技形式が変遷する中でWOC2005を目標とする我
々にとって新しい知見もあると思われる。以下に報告する。
2 日程
9/30 夜 成田発
10/1 午前 プラハ着
午後 プラハ観光
夕方 ブルノへ電車にて移動
ブルノサントンホテル泊
10/2 午前
スプリント予選
午後
スプリント決勝
10/3 午後
ロングBファイナル決勝
10/4 午前 リレーモデル
午後 レスト
10/5 午前
リレー
10/5 午後 プラハへ車にて移動
夜 プラハ発
10/6 夜 成田発
6泊6日(うち機中2泊)の短い行程で3日間4レースを走った。レース直前の現地入りは98年のフィンランド戦でも経験していたので不安はなかった。時差
の影響、長旅の疲れはレースにはまったく影響なかった。
3 遠征までのトレーニング
2002年の前半は体のコンディションもよく、よいトレーニングができた。
1月 466km 正月HB合宿117km/3日、箱根マラニック36kmなど走りこみ中心
2月 343km 関東学連リレー、OC大会参加など
3月 263km 前半全日本への調整、全日本は好感触も2位
4月 387km 前半マラソン練習、しかし霞ヶ浦2時間50分、LONG-Oは良コンディション
5月 290km 前半やや休養、後半NT合宿 小海トレイルフェスなど
6月 350km マラニック2回 夏の山岳マラソンに向け走りこみ
7月 307km 丹沢耐久はコンディション△、富士登山競争で自己ベスト順位
8月 209km 富士登山駅伝5区自己ベスト、北アルプス縦走(徒歩)、CC7リレーで好感触
9月 302km 前半軽い走りこみ、後半NT合宿後は調整
4 レース
4.1 スプリント予選
1 Grant Bluett 13’41
2 Jarkko Huovila 13’45
3 Juha Peltola 13’50
10 Koji Kashimada 14’34
これまでの海外レースで最高のパフォーマンスであった。幸いなことに、(その時点で)WCポイントトップのパシ・イコネン(FIN)と同時スタートであ
り、そのパシとずっと並走することができた。ペースメーカとしては世界一級であるし、ビッグネームと並走することは大きな自信にもなった。レース中、唯一
5→6でミスを犯したが(オープンを横切るレッグで柵に気づかず、現地で気づいて迂回した。)、この時並走していたパシも同じミスを犯していた。もし一人
だったら、そのミスに動揺し、以降のリズムを崩していたかもしれない。しかし世界チャンピオンが自分以上のミスを犯し、後ろから追いかけてくるのを見て自
分のミスがたわいもないものに感じた。
結果的にコースの80%近くまでパシを視界に捕らえていたので、ゴールするときは予選通過の手ごたえを充分に感じていた。ただミスしていたパシがAグルー
プのトップで、自分も10位になるとは思っていなかった。
トップ比で約106%の予選10位。数字だけ見ればWOC以上に強豪がひしめくWCでこれだけの結果を残すことは予想だにしなかった。なぜなら106%と
いう数字は現在のベースとなる走力からすれば理想のレースをしても届かない数字だからである。
以下に何故このようなレースができたか、自分なりの要因をあげる。
1) 体のコンディションが良かったこと。
2) 6番をのぞきノーミスでほぼパ-フェクトであったこと。
3) 他の選手はハンガリーからの連戦で疲労を溜めていたこと。
4) スプリントといってもコースが森の中のコンピが中心でトップスピードで走る時間が短かったこと。
1)に関しては、WC98もそうだが、仕事の都合で直前に移動するWCの方が、じっくりと1週間トレキャンを行うWOC以上に良い結果を残す傾向にあると
いう、皮肉な結果になっている。
これは逆にWOCが、直前のトレキャンでテレインへの不安からトレーニングをしすぎ、疲労をためていることを
示唆している。WOCの遠征方式についても議論の余地があると思う。2)については身体的コンディションに問題がないかぎり技術的な手続
きにキレがあることは、2002のシーズンを通じて感じていたが、そのレベルがWCでも通用したことは大きな自信となった。3)については、明らかに他の
選手は影響あっただろう。4)に関しては、テレインの性質、コースの組み方によっては、スピードの重みは減り、「身のこなし」のような要素の割合が増える
ように思う。この「身のこなし」をきちんと身に付ければトップスピードが世界の選手に比べて劣っていても、そこそこにはくらいついていけるのだろう。
4.2 スプリント決勝
1 Damien Renard 18‘09
2 Mikhail Mamleev 18’09.9
3 Janusz Porzycz 18’19
48 Koji Kashimada 22’56
話題にもなった9番のミスで、結果は散々だった。それでもレースから学べることは数多くある。
1) 9番のミス
城壁の中のトリッキーなコントロールである。一瞬見るだけでは迷路のようで、いわゆる普通に地図を見たイメージでルートプランをたてることは出来ない。
個々の地図表記を認識して道筋を辿っていかないとルートが見つからない。
これは今までの(森での)オリエンテーリングにはなかった新しい要素である。普通ルートプランは、地図からインスピ
レーションのように浮かび出てくるものである。(少なくとも僕はそうだ) そして、そのインスピレーションを元に大まかなプランを立て、必要な部分で詳細
の読図をしてルートプランを完成させる。しかしこのようなレッグでは、このプロセスでは通用せず、インスピレーションにまかすととんでもないことになる。
はじめから細かい地図記号を読み解いた上でルートを解明するのである。ルートプランの手順が違う。
このようなオリエンテーリングは、残念ながら僕にはまだほとんど実戦経験がなかった。ここを勝負どころと捕らえてルートプランをじっくりたてることができ
なかった。
もっとも、事前にその経験不足を補うチャンスはあった。前の日にデフが発表された時、「建物の内側の角」というデフに明らかに城の中ということがわかって
おり、奥村は事前に旧マップでルート研究をしていたとのことである。
パークOの世界ではすでに常識であり、先のPWTイタリア戦のように、さらに難解なオリエンテーリングも登場しているが、今後このようなオリエンテーリン
グがスプリントとして許容されていくのかは、もう少し様子を見たほうがいいだろう。
2) ベストレースの試算
9番とそれに続く11番のミスを合わせると2分半程度、それを引くと20分30秒、対トップ比で113%、順位で41位である。30位は19’58で
110%まで3%の開きがある。全体的に、レースの完成度は予選より低いので、全体の精度をもう少し上げれば15秒くらいは上げられそうだが、まだ15秒
は差がある。
この要因は一つには予選の疲れが否めないこと、他の選手が予選より決勝に合わせていること、コースが道走りが多い割にルート選択が豊富なこと、などが上げ
られるだろう。道走りは着実に走力の差がつくし、僕の場合、スプリントのルート選択はまだまだラッシュアップの余地はある。
日本では、山口、紺野、松澤などスピードのある選手はいる。悔しいが現時点で彼らの方が僕よりスピードでは上である。彼らが、スプリントの競技特性に合っ
た走りを磨き、「身のこなし」も上手くなれば、今の僕で埋められない上位との差を詰めることは可能である。そうすればWC30位も可能だろうし、上位の層
が薄いWOCでは20位代が可能だということだ。
スプリントには大きな可能性がある。
4.3 ロング
Bファイナルとはいえ、参加選手も多く、イギリスやスイスのB級選手もいるので走りがいのあるレースである。レースはトップと9分差で113%、ミスは
1→2のルート途中のもたつきで1分弱、11で30秒程度である。体のコンディションはまずまずであったが、後半は疲労を感じ、実際ラップもことごとく松
澤君に負けている。トップのキロタイムから換算すると、Aファイナルのマッツ・ハルディンのタイムは67分くらいになる。WOCであれば予選通過ぎりぎり
〜ややボーダ下くらいのレースだろう。78分くらいは現状でも可能だが、75分は視野に入れたい。ロングレッグでのプランニングをよりきちっとすること、
後半のフィジカル面の落ちに改善の余地がある。
また、前日スプリント2本走ったコンディションは明らかにマイナスである。WOCで予選でコンディションを整えることを考えると、
スプリント
とロングは同じ選手が走ることはできないだろう。
4.4 リレー
走る前の疲労はかなり大きい。レースでなければジョグもつらいくらいの疲労感がある。しかしレース前に入念にアップをすれば、それなりに体は走ろうとする
状態になる。
リレーは、ほとんど一人で走ることになった。致命的なミスは10番の2分である。地図を見れば明らかに要注意の部分であることが予測されるのに対応できな
かった点は大きな反省。これを引いて56分台、それ以外は、小さいミスで合わせて1分程度である。中堅国として戦うには50〜54分程度のタイムが必要
だ。
このレースはコースが走りやすいこともあり、ほとんど体を追い込んで走っていた。技術的に改善する代はないとは言わないが、それほど大きくない。せいぜい
1分〜2分だろう。体の疲労を抜いて現実的に目指せるところは55分だろうか。ロングと同じだ。もう1,2分のベースアップが欲しい。
5 まとめ
今回の遠征で確認したことを箇条書きにまとめる。
1) 一般的な大陸テレインであれば、技術的な問題はほぼなくレースができる。
2) 疲労をためない状態であれば確実に良いパフォーマンスのレースができる。
3) しかし大陸系テレインではベストパフォーマンスが出来たとしても上位国の競り合いからの距離はある。もう2〜3%のベースアップが欲しい。
4) スプリントはまだ大きなチャンスが残っている種目である。
6 WOC2003以降に向けての応用
今回の遠征は、変わりつつあるWOCで日本チームとしてどのように対応すべきかを示唆してくれた部分がいくつかあった。以下に簡単に僕の意見を述べる。
1)
直前のトレキャンは量を今まで以上に押えるか、あるいは他の時期にトレキャンを行い、大会期間中に完全に疲労を抜くようにする。
2)
スプリント、ロング、ミドル、リレーの4種目で、チームとして重要なレースをまず決める。そのレースで最良の結果を出すことからスタートし、各選手の出場
するレースを決める。
3) スプリントに特化した選手を養成する。