公開討論(前半)


(基調講演を終えて、パネルディスカッション)



各パネリストからの一言

松澤:
各パネリストの皆さん、今日のシンポジウムに参加するに当たって考えていること、聴衆の皆さんに訴えたいこと、他のパネリストに質問したいことなど、一言 ずつお願いします。

小泉: 
 先ほど鹿島田さんの講演の中でもあったが、日本の選手は決して努力をしていないわけではなく、「意識の持ち方」に問題があると思います。ヨー ロッパでの長 期遠征も多く経験しているので、ほかの外国選手と日本の選手の意識の違いというのはよくわかっているつもり。その意識をうまく変えられるようにと思い、今 回、ここに座らせてもらった。今風にいえば「Yes we can!」、「できる」という気持ちがあれば大丈夫だと思う。

橋本: 
自分の仕事が中学と高校の教員で、オリエンテーリング部の顧問をしています。その中で、ジュニアの視点、中高生のこれからの動機付けという普及面を含めて の話ができればと思っている。

円井: 
 今回、鹿島田さんから話をいただいて共感して、ぜひ参加したいと思いました。たぶん僕が呼ばれたのは、普通のオリエンティアと違ってトレイル ランニングに も力を入れていて、違う世界のトップ選手とも交流があるからで、そのへんの話も紹介できたらと思っている。あと、多摩OL(地域クラブ)も長く在籍してお り、普及面、ジュニアの強化にも力を入れているので、そういった面でも話ができればと思っている。

番場: 
先ほどの小泉さんの話の内容に共感しました。鹿島田さんの基調講演の話の中にあった「日本チームが何年間か停滞している」という意識は、私はまったく持っ ていない。今、少なくとも女子チームに関して言えば、私の中では「どんどん伸びてきている」と思っている。もうあと一歩で、目標とする予選通過に手が届き そうなくらい力もつけていると思っているので、それに加えて、さらにどうすればもっと上にいけるかという意識、観点で今日はお話させていただきたい。

藤沼: 
 僕は新潟大学という地方で中堅よりも少し弱い大学の出身です。普通はNT(ナショナルチーム)などにほとんど関わらずに卒業してしまうが、僕 は運良く拾っ てもらい、今回、NTに携われるようになった。地方の大学でも、インカレで目立った成績がなくてもやる気のある学生はいるし、そういう人たちにもっとNT の活動を知ってもらいたいと思っている。
あとは、卒業して社会人になってからオリエンテーリングを続ける人が少ない中で、僕は中間層というか、大学を卒業してからさらに上を目指すことの難しさと か、自分が今取り組んでいることを話せればいいかなと思い、参加させてもらった。





日本と世界の差 〜意識の持ち方

松澤: 
番場選手は、日本チームは「停滞」という評価ではなく「力をつけている、さらに上に行くチャンスがある」という話をしてくれた。そのあたり、個人としての 実感を含めて話を聞かせてもらえますか?

番場: 
私は世界選手権の予選通過を目標に何年間かやってきた。その目標の観点で行くと「トップ比何%」というのは意味がなく、「予選を通過したか、しないか」と いうのが私の中では重要な大きな壁である。その大きな壁に関していえば、2005年には出場した女子選手が全員予選を通過して、次の2006年には私だけ でなく皆川選手も通過した。2008年にも私は予選を通過したし、「予選を通過できる、できない」という1つのラインを考えれば、この数年間を見た限りで は、予選を通過した人をたくさん知っている。
2004年までは、予選を通過した人をあまり知らなかったので、その壁がどの程度なのかわからなかった。トップ比120%とか130%というパーセンテー ジで考えていたが、そういうパーセンテージは関係なく、「あ、通過できるんだ」という意識改革がそこであった。
今も、少なくとも日本の女子は「あの人なら予選を通過できるんだ」という通過ラインが見えているだけでも、だいぶ違うんじゃないかと。それが2005年以 降、大きく変わっている。今、その段階をさらに上にいかせるフェーズではないか、それが私の意識である。

松澤: 
大きなターニングポイントは2005年にあったと。補足すると、2005年は男子7名、女子5名が日本代表として日本の愛知県で開催された世界選手権に出 場して、女子5名は全員決勝進出を経験した。それもあって、番場選手はポジティブになれたと。一方、男子のデータを見るとやはり厳しいことが見てとれる。 連続で世界選手権に出場している小泉選手は、先ほどの数字、あるいはご自身の実感、世界との差というところではいかがですか?
(※注:WOC2005の女子日本代表は実際には6名)

小泉: 
世界との差という意味では、結果を見ても、タイム比にしても、男子の成績は、愛知をのぞけば予選通過は遠いという意識がある。なぜそうなっているか私もわ からない部分はある。
ただ、この程度の走力、オリエンテーリングのレースをすれば予選は通過できるという感触は、男子の中にも確実にある。たとえば近年だと、複数年で予選を通 過している山口大助選手が良い走りをすれば予選は通過できる。あのペースでいけば通過できるんだと。では自分はどれくらいで走れるんだろう、という目安は 確実にある。ただ、それを目標に走れるというのでは(かつて村越さんがそうであったと思うが)、世界との差が縮まっているかどうかという話はできない。
世界を目指す指針は私たちも把握していて、目指すべきものは見えている。壁を越えるための目標は持っている、という実感はある。

松澤: 
小泉選手も通過のイメージは明確にある、と。では、やはり代表経験のある円井選手はいかがでしょうか?

円井: 
僕自身は、世界選手権では予選通過にはほど遠い実力だった。今、選手といいながらも、日本代表からは離れて活動している。その中で僕自身はもう少し厳しい 意見を持っている。鹿島田さんや宮川さんがおっしゃったように、日本チームは世界選手権に30年間取り組んできたが、まだ予選を通過するかしないかのレベ ルにある。そこを何とか、予選通過を確実なレベルに持っていきたいと。僕の個人的な願望かもしれないが、20、30年後には日本選手が世界選手権のメダリ ストになるにはどうしたらいいか、個人的な興味もあって考えている。
近年では2005年の日本開催の世界選手権があって、そこでブレイクして「日本選手は予選通過は確実」というレベルくらいいけるのかなと思っていたが、 2005年を越えても、予選通過は厳しいという現状がある。いったいそれは何が足りないんだろう、と。
トレイルランニングの話も出たが、トレイルランニングの世界がまだ成熟していないこともあると思うが、日本選手がいきなり海外のレースで上位に入賞してい る実情がある。オリエンテーリングでは考えられないくらいの順位をとっているのはどうしてだろう、と。競技の成熟度の違いなのか、選手のポテンシャルの 違いなのか……そのあたりをいつも考えている。今回のシンポジウムで、予選通過するには、世界で上位にいくための解決策が見つかれば思っている。




強化策について

松澤: 
鹿島田さんの基調講演にて、日本オリエンテーリング協会の強化体制、合宿の頻度、強化策の現状を見てもらった。それが十分なのか。不十分だとするとどこに 力を注いでもらいたいのか、選手の声を聞きたい。まずNT入りして間もない藤沼選手、どうでしょうか?

藤沼: 
僕は強化指定B選手だったので、強化委員の方と直に接することはあまりなかった。強化指定選手になるともっと何かアプローチがあるのかなと思ったが、そう いうことは特になかった。
オリエンテーリングは、競技の性質上、ごまかしがきいてしまうというか、できないことを他の部分で補ってしまうというところがあるので、弱点があるのに克 服できずにいたままになってしまう、という面がある。もっと厳しく、たとえば「君はここが弱いから改善しなさい」と言ってくれてもよい。褒めてくれる人は いても、厳しく言ってくれる人がいなかった。

松澤: 
「組織内でのコーチングの体制が欲しい」というところか?

藤沼: 
そうですね。自己管理ができる人が多いから個人に任せているところもあると思うが、僕はそういう自己管理が苦手で、もっとそういう指導などを期待してい た。

松澤: 
私も強化委員だが、他の選手からも、強化B選手こそ、NTに入ったばかりなのできちんとコミュニケーションの機会を増やしてほしいという要望も聞く。藤沼 選手の話からもその一端を感じた。先輩の強化選手として、小泉選手、強化策への要望などあればお願いします。

小泉: 
私はこの数年間、強化選手だが、強化選手のメリットというのをいっさい感じていない。2005年の前までは合宿がたくさん開催されて、それに優先的に参加 できるというメリットは感じていたが、その後の3年間は、合宿に出られる、国際大会に出られるメリットがあるというだけで、あとはほとんどメリットが感じ られない。何のための強化選手制度なのか、と常々疑問は感じている。
強化も、何のためのどこを目標にした強化なのか。2005年は予選通過するという目標があったが、それ以降は、「予選を通過できればいいな」という共通意 識くらい。全体として、この先10年間、20年後の日本の選手、オリエンテーリング界がどうなっていくのか、という長期的なビジョンを含めて、不透明なま ま、行きあたりばったりでとりあえず参加しているという現状は感じている。

松澤: 
番場選手は個人としては、明確な予選通過の目標、基準も持っているとのことだが、強化策に対しては何か意見があるか?

番場: 
そもそもこの数年、強化策をあまり聞いたことがない。次の1年に向けて、何を重点的にやるかという話は聞いたことがないし、たとえば、今は何年後の世界選 手権をメインに考えているとか、そういう話も少なくとも2006年以降はないと思う。強化に関しての問題は、目標、方向性が見えてきていないことだと思 う。

松澤: 
橋本さんも強化委員として携わっているが、強化委員になってまだ日が浅いという立場から、または一個人としての意見を聞かせてほしい。

 橋本: 
 今、番場さんから強化策が不透明だという話があった。今回、このような場に臨むにあたって、ジュニアの話も聞いてきた。その中で、同じような ことを高校生 も感じているというのがあった。大会には出るけれども、何を目指しているのかよくわからない部分がある。将来、このままオリエンテーリングをやっていける のか、と。好きだからという理由でやっているが、不安な面もあると。
そのままで終わらせては残念なので、せっかく強化委員になったし、もう少し具体的に、たとえばジュニアならどこを目指すのかとか、委員としてどんなアプ ローチが必要なのか、考えていかないといけないなと思う。普及を含めて必要な部分かなと思っている。






選手の取り組み

松澤: 
選手個人の取り組みについて、まず円井選手より、結果が厳しいのは、個人的な取り組みに対しても課題はあるのではないかと。ほかの世界のアスリートもよく 知っていると思う。ご自身も発信されているが、この場でも皆さんにご紹介いただければ。

円井: 
鹿島田さんのわかりやすい説明にもあったが、僕自身、オリエンティアのトップ選手と話したり、トレーニングを聞いたりして、尊敬に値するところもある。忙 しい仕事の中であったり、工夫をして会社から支援を受けたり、あるいはそういう会社を選ぶとか。
付き合いのあるトレイルランニングの世界では、トップ選手は、プロに近い、もしくは公務員で比較的時間の作りやすい選手が多い。しかし、普通の多忙な社会 人でも速い選手は多い。彼ら社会人ランナーと、日本トップオリエンティアとでは、トレーニング量もそんなに差はない気はする。しかし自衛隊やプロに近い選 手、公務員の選手などは、今のオリエンテーリング・ナショナルチームの選手よりは、もう少しトレーニングしていると思う。距離でいうと、月に600km、 700kmの選手もいる。
海外のトップオリエンティアは年間トレーニング900時間という話があったが、日本の男子だと500時間くらいの選手が多い。そういった部分で、日本のオ リエンテーリング選手も、もう少しトレーニングできるのでは、と個人的に感じている。
あとは、小泉君も言うように、競技に対する意識もあると思う。競技のためにお金を稼いでいると割り切ってアルバイトをしたり、会社を辞めてでも遠征に行 く、というくらい意識の高い選手も知っている。そういうところで、見習うべきところはあるとは思う。
オリエンテーリングの特性として、いかに森で練習するか、オリエンテーリングの回数を増やすか、北欧に行ったらいいかとか、そういう側面での問題もあると 思う。強化策として、選手にどんな支援ができるか、お金の面とか、自分がどうしたらいいかという案は出しにくいが、何とかできればと感じている。

松澤: 
番場選手もいろいろな壁に当たっていく中で、現在は会社では以前よりも良い環境でできている、と。個人の取り組みという点では現状の日本チーム、あるいは ご自身のことを含めてどうか?

番場: 
個人の取り組みを評価したり発言したりする際にも、目的が何かということを明確にする必要があると思う。たとえば予選通過が目的であれば、私は今の日本の 選手の取り組みは個人として非常に準備もしていると思う。まだ十分じゃないから全員が通過していないのかもしれないが、十分にできる環境に整えることは可 能だと思う。今の環境でも十分にポテンシャルを出せば目標は達成できるレベルだと思っている。
ただし、目標が、日本の中から世界選手権でメダリストを出したい、ということになってくると、個人の努力という点でもまだまだ不足だと思うし、選手のポテ ンシャルという面でもまったくもって不足だと思う。そこを切り分けて考えなければいけないと思う。少なくとも予選を通過するという目標の範囲では、劣って いるということは全くないと思う。

松澤: 
小泉選手もご自身で環境を変えられたところがあると思う。自身の経験、海外の選手を見ている中ではどうか? 先ほど、意識の持ち方、という話もあったが。

小泉: 
私の職場は、多少理解はあるが、実質フルタイムでやっている。ほかのみなさんと環境が違うとは思っていない。私たち同世代の選手たちはみな、予選通過を目 標にずっとやってきて、それに対するコミットメントというか、努力は十分してきていると思う。10数年前は、村越さんと鹿島田さんしか持っていなかった予 選通過のイメージを、少なくとも今年世界選手権に参加した選手はみな持っている。そういう選手が複数人いるという面でも、レベルアップしている。目標のレ ベルも良いものだと思っている。
世界チャンピオンになる、世界選手権でメダルを取る、あるいは予選を確実に通過する、という目標があるなら、本当にそれを望むなら、私は北欧に行くべきだ と思う。向こうはいつでもオリエンテーリングができる。環境面、選手層の面でも向こうに行けば速くなるのは確実。
先ほど鹿島田さんより紹介があったように、世界トップ選手はみな北欧に数ヶ月は住んでいる。日本選手がそれをしないというのは、どこかで、そこまで人生を かけてオリエンテーリングをやっていないのかもしれない。逆にオリエンティアというのは世界的にも賢い人が多くて、分析能力やマネジメント能力が優れてい る。先ほどの鹿島田さんのように数字を使ったデータをとって分析したりするのが優れている。逆に、そういうのが日本選手にとって足かせになっているところ もあるのかな、と思う。たとえば、北欧に行くときにいくらかかって、失敗して日本に戻ってきたら就職がないかも、と心配したり、打算的な考えをしてしまう と怖くて決断できないと思う。私が北欧に行って現地でトップ選手と話していて感じたのは、彼らは、失敗することを考えていない。「絶対にできる、やるん だ」という気持ちでやっている。そこがまず違う。
たとえば女子だと、宮内さんが大学に入ってからマラソンを始めて良いタイムを出したというのは有名な話だが、普通の人だったら陸上経験がないのにサブス リーを達成できるとは思わない。ただ、彼女は絶対にできると思って、ひたすら走って達成した。そういう「無謀さ、無鉄砲さ」というのが、成功のためには必 要。日本のオリエンティアにはそういう賢すぎる部分があるのかなと。
オリンピックで活躍した選手も、失敗することを考えずにやってきている選手が多い。「無鉄砲さ、無謀さ」というのが足りてないのかなと思う。



環境面

松澤: 
今の話から北欧の環境面の話も出た。北欧の話も聞きたいが、日本の中でもオリエンテーリング活動に向いている場所とそうではない場所があると思う。円井選 手、関東から北陸に転居されて、オリエンテーリングを続けるという面では苦労もあるのではないかと思うが。

円井: 
大学から10年くらい関東にいて、この4月から北陸に移った。北陸では競技性の高い大会が少ないのは当然というか、関東にいた方が大会には出られる。
個人的な仕事の都合で、2004年くらいまではけっこう大会に出ていたが、それ以降はあまり大会に出られていない。オリエンテーリングの回数は減って、走 力に特化したトレーニングになってきた。日本代表の紺野君とかは、常に週末は山でオリエンテーリングをやっていると聞くし、他のNT選手でも北欧に数ヶ月 オリエンテーリング遠征をしたという話も聞く。目的にもよるが、トレーニング環境は工夫次第だと思う。
世界チャンピオンのジョルジュはトレーニングの半分は山でやっていると聞いた。そういう形でできれば理想かなと思う。

松澤: 
逆に、新潟で学生時代にオリエンテーリングを始めて、最近関東に移った藤沼選手はいかがですか。日本国内の環境の良し悪しという面で考えるところがあれ ば。

藤沼: 
新潟というところはテレイン(オリエンテーリングを行うフィールド)が壊滅的にない状態で、月に1回オリエンテーリングができればいい、という感じだっ た。オリエンテーリングができることはすごく貴重なことだった。だから1年のプランを立てて、この大会ではこれくらいの順位を出したい、と目標を明確に立 てて臨んでいた。
関東に移り住んできて、すごく環境が恵まれていると思った。その中で、電車で何分というところでオリエンテーリングができるところにいるオリエンティアを 見てきて思ったのは、準備が足りないというか、ハングリーさが足りないというか。オリエンテーリングができることが当たり前になっていて、逆にそれに対す る準備が甘いというか、もったいないなと。特に学生を見て、こんなにオリエンテーリングができる機会があるんだからもっと速くなれるのでは、と感じる。
今は僕自身も、オリエンテーリングが毎週のようにできることが当たり前になり、それに甘んじている部分がある。だから、毎週、ただ漠然と参加するのではな く、ターゲットを絞って取り組んでいくという考えを持つ人が増えたほうがいいと思う。

松澤: 
橋本さんは、中高生がオリエンテーリングを行う上での現在の環境についてどうお考えか。

橋本: 
以前より公園の大会が増え、スプリント系の大会が増えた。中高生が全く経験のない中でやるという上では、環境はだいぶ整備されて良くなっていると思う。や はりいきなり山に連れていくのは怖い。ある程度経験があればいいが、全く知識がない中で山にほうりこむのは危険がついてまわる。
パーク系のスプリント系の大会が増えて、世界でも行われるようになってきているのは、中高生に良い環境になってきていると思う。普及の上でもスプリントは 今後、すごく使えるんじゃないかと。それが最終的に山の方に進展していけばいいんじゃないかなと思っている。

松澤: 
小泉選手は大学で北欧のオリエンテーリングクラブを研究した経験もある。事例を含めて環境についてお話いただければ。

小泉: 
環境について北欧と日本を比べると、まったくすべてが違うと言ってもいいくらい。北欧は日本で言われる地域クラブがしっかりしている。そこには老若男女問 わず多くの選手、愛好家が参加して、クラブの代表が、日本で言う県協会を組織し、その代表が国の連盟を組織している。日本でいうJOA(日本オリエンテー リング協会)から地域クラブまでが一体となって、自分たちの国のオリエンテーリングという意識を持ってやっている。日本はどちらかというと今までのイメー ジだとJOAはお役所的な立場で、俺たち(地域クラブ)は勝手にやるんだ、と。
北欧ではジュニアの普及にとても力を入れている。スウェーデンではこうした(テキストを見せながら)県協会で作った冊子を配っていて、10歳くらいの子ど もたちに地図の見方、等高線の読み方をテキストで教えて山に行こうという取り組みをしている。そういう下地があるからこそ家族の中で(オリエンティアの) 子どもがオリエンテーリングを始める環境や、つながりのなかった子どもたちもスムーズに入っていって若手が継続的に参加していくという環境がある。
日本でそういう環境があるかというと、組織だった指導法がなくて、個人的な選手のつながりで教わるということが中心になっていると思う。日本にも村越さん や松澤さんが書いている本があり、内容はとても良いと思う。こういうのを高校や大学で、みんなで読んで、わからないところは講師を呼んで調べよう、という 取り組みをしているのは少なくとも私の周りにはいない。逆に日本人はどうやったらオリエンテーリングがうまくなるかという疑問がある。日本でオリエンテー リングを始めた人は、基本的には手探りで、近くに速い人がいればいいが、それで20代後半まで代表に届かない、ということにつながっていると思う。
逆に聞きたいのは、藤沼選手なんかは新潟で強いOBもいない中で、どうやって成長してこれたのか?

藤沼: 
たとえば、世界と日本の関係は、関東と新潟の関係に似ているのかな、と(笑)。テレイン的には恵まれていないし制限がある状態だと思う。その中で、恵まれ ている人に勝とうと思ったときに、まずオリエンテーリングのテクニックで経験を積むのはなかなか難しいと思ったので、1回1回の練習でいかに課題を持って 濃密に時間を過ごすか、ということを考えた。そのためには、その時間の中でどれだけオリエンテーリングをこなせるか、というために、まず体力をつけてフィ ジカルのベースで、技術的に勝っている選手に勝てなければ先は見えないんじゃないかなと。体力トレーニングくらいしかできることがなかったのでまずフィジ カルを徹底的に強化して、できる範囲で技術をつけていこうということから始めた。
最近特に中国の選手なんかは、フィジカルのベースありきでオリエンテーリングが強くなったと思う。アプローチの仕方としては、まずフィジカルを強くしてか ら技術をつけていくというやり方を浸透させていってもいいのかなと思う。

松澤: 
番場選手は、中国選手との交流があると思うが。

番場: 
有名な話だが、中国のリー・ジーという選手は、シドニー五輪で1万メートル7位の選手。ただリー・ジーさんと比べてほかの中国選手が走力的に劣っているか というと、見た感じ、そんなことはまったくなかった。簡単に言えば、皆さん、フィジカルはアホみたいに強い。その上で、中国選手は2ヶ月前に世界選手権開 催地に入って、とことん現地で練習して、今年はリレーで結果を出したという状態。
ただ皆さんが見えていないところとしては、実は中国選手は5人行っていて、5人とも結果を出していたかというとそうではなくて、2人出ていない選手がい る。身体が強くてもやっぱりオリエンテーリングができない、いつまでたっても大きなミスをしてしまうという選手もいた。全員走力が強いからといって全員結 果が出せるわけではない。しかしベースがあれだけ強い選手がいれば、そのうちの何人かは必ず結果を出しているというのが現状だと思う。

松澤: 
補足すると、中国選手は今年世界選手権で女性5人登録があった。個人3種目とリレーで12枠あるが、3人でその12枠を埋めている。あとの2人は2ヶ月合 宿したにもかかわらず出走できなかったという現状がある。


===
1.シンポジ ウム概要・パネリスト紹介
2.基調講演「世界における日本の位置」
3.公開討論(前半)
4.公開討論(後半)
(編集:円井基史、協力:JOA強化委員会、松田珠子)
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