メンタルマネージメント報告
【報告者】 村越真
【実施日】 2002年12月29日
【はじめに】
ナショナルチームの合宿では、昨年来、夜のメニューでメンタルマネージメントを行っている。スポーツで高いパフォーマンスを上げるには、心技体の3つの領域の必要性が指摘されているが、技・体に比べると心の領域は選手個人に任されてきた。オリエンテーリングでもそれは例外ではない。しかし、重要なレースのプレッシャーの中、心理面は成績向上のキーポイントになりつつある。1991年から95年にかけて世界選手権のリレーで3連覇したスイスも、個々の実力からみれば勝る北欧諸国を破った背景にはメンタルマネージメントの影響が指摘されている。また、ノルウェーでも、五輪の選手を招いて話を聞くなど、メンタル面への配慮を行っている。今後オリエンテーリングの世界でも、競技の高度化に伴ってメンタル面の重要性はますます高まると思われる。
【領域】
一言で心といっても、その働きは多様である。不安やプレッシャーも心の働きの一つであるが、目標設定やそれにともなう動機づけ、またそれを達成するための計画や実行も広い意味では心の働きである。
一般にメンタルマネージメントというと、イメージトレーニングや、リラクセーションといった不安に対抗する技法がイメージされる。これらはもちろん重要な側面であるが、長期的な計画の中では動機づけや目標設定、それに伴う実行の調整が重要になる。そこで、ナショナルチームのメンタルマネージメントでも、これまで主として目標設定やその実行のための技法を取り上げてきた。また世界選手権チームの合宿では、チームワークづくりの技法を行っている。
これらのメンタルマネージメントの方法についても、包括的に紹介したいところだが、それは時間的余裕ができてからということにし、今回は2002年12月の合宿で行われた「ピークパフォーマンス分析」を紹介することにする。今後は、他の技法についても逐次紹介してゆく予定である。
【ピークパフォーマンス分析】
このピークパフォーマンス分析は、自分ひとりでもできるので、興味ある読者は、実施してほしい。
1.準備するもの
A3くらいの用紙。少し腰のある厚口の紙で薄い色がついているものがよい。
ポストイット(25mm×80mm)(50枚くらい)
2.狙い
自分のピークパフォーマンスを振り返り、自分のやる気や実力発揮に影響していると思われる要因を見つけ出す。ピークパフォーマンスとは、実力が遺憾なく発揮され、自他ともにすばらしい結果・内容が残せたと思えるような試合・レースのことである。そう言い切れるレースがない時には、それに準ずる「いい結果」を選んでもよい
3.手順
1)自分のピークパフォーマンスを一つ選び、それを用紙中央に書く。
(例:「97年世界選手権ショート競技」
2)15分程度周囲から邪魔されない時間をとり、そのレースのことについて自由に振り返り、思いついたことを、1件について1枚のポストイットに記入する。なかなか思い出せないときは、「その時の体調は」「天気は?」「誰と一緒」「どんな準備をしたか?」など自問しながら、進める。
(例:「5月に不調ながら、トレーニングにがんばった」「デンマーク遠征時から好調」「直前にイェーテボリで過ごしたゆったりした生活」「大学、忙しい」など)
3)ポストイットが30枚程度たまり、それ以上出なくなったら、次のステップに移る。
このステップでは、ポストイットを見ながら、関連あるものを近くに並べ替え、グループ化する。さらにグループ間の関連も考えながら、グループも並び替える。
完成例
4)この作業からだけでも、自分をやる気にさせたり、実力を発揮させている要因が何かを、改めて気づくことができるだろう。さらに、以下の項目それぞれについて、自分のピークパフォーマンスとの関連を高中低の3段階で評価してみよう。
評価項目:使命感、努力、勝利への執念、チームワーク、サポーターとの一体感、環境
この作業によって、特にどんな要素によって自分がやる気を高めているかをチェックすることができるはずである。また、他の人と一緒に作業をすることで、競技の成功には様々な動機づけが働いている可能性に気づくこともできるだろう。
自分のピークパフォーマンスを改めて思い出し、またこれからの動機づけの方向性を見出すことに、このピークパフォーマンス分析の狙いはある。